桜が春の風に舞い散ると、竹の子を掘る農家の方が忙しくなる。
この頃になると朝は肌寒いが、昼間は暑い気候。竹の子を堀る
農家の方もタオルで汗を拭いながらの作業となる。竹の子を
掘るのは重労働だ。食べる側の私は、お疲れ様とこころの中で
手を合わす。
先代の亭主と世間話しをしたくて、たけのこ(筍)を湯がいている
部屋に入る。先代の亭主もたけのこ(筍)湯がきで汗をかいていた。
中にはいると米ぬかの匂いとたけのこ(筍)の甘い香りがする。
なんだか別の空間だ。
おっ。また来たかという顔して私を迎え入れる亭主に、ぶしつけに
質問する私。
「このあたりの竹の子はいつまでとれるのか?」と、たずねた。
「さーあ。わからへんなぁ。」と、天を仰ぐ亭主。
お天とう様だけが知ることといわんばかり。また、愚問を
してしまったかと、私も一緒に天を仰ぐ。
「たけのこ(筍)も人間と同じで、早く成長して一人前になる
もんもあるし、ゆっくりとでる大器晩成のものもある。」
亭主はこうも続けた。
「竹やぶも場所によって 早出(はやで)のやぶと遅出
(おそで)のやぶがある。日のあたる南向きのやぶは
概ね早出になるもんや。谷側のやぶは遅出になるしなぁ。」
農家に尋ねても答えはまちまちだとのこと。
5月のゴールデンウィークが過ぎたころに、先代の亭主を
訪ねてみると、亭主はたけのこ(筍)湯がきの部屋にいなく、
もうたけのこ(筍)は終わったのかと思っていると、亭主は
店先の竹やぶにいた。そして、掘りたての竹の子を私に
みせてこういった。
「うちのやぶは わしと一緒で 晩熟(おくて)なんや。」
亭主は汗を拭い、手もちの水筒からうまそうにお茶を飲んでいた。
5月に入っても採れる、見事な竹の子をみて、
「晩熟(おくて)でも悪くないなぁ。」と、思った。
そして、僕の人生もこれからだと勇気をもらったような気がした。
その年、5月の下旬まで地元の孟宗竹の竹の子が採れていた。
莞鳴
現在の亭主自前の竹やぶにて竹の子を掘る。
掘りたての竹の子